少女趣味こーなあ 長屋版

今月の少女趣味こうなあ十七


   なぜ                   川崎 洋

なぜ 風は

新しい割りばしのように かおるのだろう
なぜ 鳥は

空を滑れるのだろう
なぜ 夏蜜柑は酸っぱいのだろう
なぜ 海は

色を変えるのだろう
なぜ たった一人の人を 愛するようになるのだろう
なぜ 涙は 嬉しいときにも出るのだろう
なぜ フリュートは あんなに遠くまで ひびくのだろう
なぜ 人は けわしい顔を するのだろう
なぜギターの弦は 5本でなく 7本でなく 6本なのだろう
なぜ

なぜ

なぜ
そして 人は なぜ

いつの頃からか

なぜ

を言わなくなるのだろう

熊さん 川崎洋さんは、一九三〇年生まれ、二〇〇四年に亡くなりました。

虎さん うちの子供もよう「何で、なんで?」と、小さいときは聞きましたなあ。

ご隠居 子どもが何でと聞くのは、何歳ぐらいまでやろなあ。

虎さん どうでっかなあ、わしんとこは、もう中学生やさかい、なんでと聞くどころか、親にあんまり話さんようになりましたわ。

熊さん 何でと聞いても親にも分からんことがあるということを知る頃より、聞かんようになんのと違いまっか。

虎さん 熊さん詩人やなあ。

熊さん 詩人ついでにちょっと言わしてもらうけど、大人になってもみんな何故って聞いてますよ。言葉にならない声で・・・。

ご隠居 どういうことやねん。

熊さん なぜ、私の人生はこうなんだろうとか、なぜ私は病気になったんだろうとか、なぜは、大人になってからのほうが多くなるような気がしますもん。

虎さん なぜわしの嫁さんはこんな顔やろかとか、なぜ家の息子はこないアホなんやろかとか、熊さんの家はなぜの宝庫やもんなあ。

熊さん そのまま返したるわ。

ご隠居 わしもなぜ虎さんと熊さんは店賃払わへんのかと、いつも思ってるもんな。。